死神に打ち負かされる恋人たち by Hans Burgkmair - 1510年頃 - 21 x 15 cm 死神に打ち負かされる恋人たち by Hans Burgkmair - 1510年頃 - 21 x 15 cm

死神に打ち負かされる恋人たち

キアロスクーロ、木版画 • 21 x 15 cm
  • Hans Burgkmair - 1473 - 1531 Hans Burgkmair 1510年頃

15世紀の終わりには、版画はイメージを生み出し普及するための方法として広く使われるようになっていました。この媒体は非常に柔軟で、捧げ物から複雑な本の挿絵に至るまで、あらゆる作品に用いられました。1510年代まで、木版画はほとんど白黒だったのですが、芸術家たちは作品にさらなる奥行きを出す過程として、版木を増やすという実験をし始めました。

この絵を生み出すため、版木は1つではなく3つ用いられており、3種類の茶色いインクで陰影をつけています。最も暗いインクは輪郭に、中くらいの茶色は影や、右側の柱の模様などの細部に用いられており、金色のような茶色は全体的な色として使われています。インクのついていない紙の淡い色合いは、ハイライトの当たった部分を作るため、むき出しのままになっています。

絵画全体に施された効果により、輪郭のはっきりとした、彫刻のようだと言っても過言ではない光景が際立っています。暗い色合いの平行のハッチング線によって、建築物からなる背景の輪郭をはっきり示されている一方で、曲線によって人物たちの丸みが象られており、動きを生み出しています。版画の施されていない紙の部分によるハイライトは、さらなる立体的な精細さを形に、とくに人物のところに与えています。ここに表されたイメージは別世界のものですが、それであると同時に、人間という存在の現実的な面も扱っています。ここに示された一例を通じて、愛、恐怖、死、喪失という題材が誰からしても簡単に理解できるものとなっているのです。動くことのない、冷たい石造りの背景を背に、骸骨のようなフォルムの死神が2人の恋人に対して身の毛もよだつような行為を行うという、強烈なドラマの場景での一瞬が切り取られています。

《死神に打ち負かされる恋人たち》がもし単色で刷られたとしたら、そこまで印象に残るものではなかったかもしれませんが、それでも死神は乱暴に男を襲いながら、脅すように肩越しに女を見て、女は絶望しながら逃げ惑うという情景に変わりはありません。付け加えられた色合いがさらにリアルな印象を与え、色付きで刷られることにより、白黒よりも否定しにくいような我々との関連度が見出せるように思えます。

- Sarah