ルネサンス時代、男性画家が支配する家父長制の社会で画家として活躍することは、容易なことではありませんでした。そんななか、ガラスのフラスコのような慣習を打ち破った一人の女性が、イタリア・ルネサンスの画家、ソフォニスバ・アングイッソラです。5人娘の長女であったソフォニスバの父親は、娘に芸術家としての才能を追求し、発展させることを勧めました。
22歳の時、ローマに渡った彼女のスケッチがミケランジェロの目にとまり、彼はソフォニスバの才能を認め、2年間彼女を指導しました。1559年、彼女はスペイン王フィリップの宮廷に迎えられ、エリザベス・ヴァロワ王妃の侍女となり、後に宮廷画家として活躍することになります。その後、フィリップ王はソフォニスバに貴族の結婚を斡旋したのですが、彼女の芸術的意欲は衰えることなく、画家としての仕事を追求し続けました。ミケランジェロや王族に認められただけでなく、ローマ教皇ピウス4世からは、彼のためだけにエリザベス女王の肖像画を描くよう依頼されたのでした。
『自画像』(油彩・カンヴァス)には、イエスとマリアを描いた絵を前に、イーゼルに座るソフォニスバの姿が描かれています。この絵は、彼女が卓越した画家であることを示すだけでなく、彼女の宗教的な性格と献身的な姿勢を浮き彫りにしています。絵筆はイエスを指していて、これは、まるでソフォニスバが手前の自分の姿から離れ、宗教的な光景に焦点を合わせるよう誘導しているかのようです。これはソフォニスバの謙虚さを示すとともに、彼女がこの肖像画で最も重要だと感じているもの、自分ではなくイエスとマリアに再び焦点を合わせているということでしょう。
ソフォニスバは、男性ほど有名にはなりませんでしたが、同時代の他の女性たちが本格的に美術を学び、芸術家になるための道を開いた存在です。ソフォニスバは長寿を全うし、93歳で亡くなりましたが、彼女の作品はヨーロッパ各地の美術館で見ることができる充実したコレクションを残しています。
ハイディ・ヴェルバー