パウル・クレーは、空間、建築物、場所の遠近法的構造に対してめったに興味を持ちませんでした。最初期の作品では、中心に焦点を据える伝統的な透視図法よりも、とりわけキュビストによる構図のアイデアに全体的に影響を受けつつ、それを進化させたような自由に構築していく描き方を選んでいました。もう一つ、インスピレーションの源になったのが、イタリア人画家ジョルジョ・デ・キリコが描いた形而上的な広場や建築物でした。空っぽの夢幻的な広場や部屋が描かれた1910年代のデ・キリコの作品は、幅広いジャンルの芸術家に、中でもシュルレアリストに大きな影響を与えました。《住人のいる室内透視図》には、デ・キリコの作品との関係がはっきりと現れています。クレーは、部屋の内部の光景をシンプルに構築しています。家具や住民たちを表す立体的なピースがいくつか描かれているだけです。クレーは、透視図の中に住民を「組み込み」ました。3人は床に横たわっているように見え、もう3人は右側の壁に貼り付けられています。3次元の肉体としてではなく、平面の図形による構成物として描かれているのです。それゆえ、この住民たちはシンプルに平面であることによって、遠近的に構築されたものの三次元性と相反するものとなっています。
この《住人のいる室内透視図》の鉛筆デッサンと1921年に描かれたバージョンのものも、保存がなされています。《暗い色のドアのある室内透視図》という似たような色付きの絵が、この絵の少し前に描かれています。クレーは、このカラー版の絵を油彩転写によって絵画の支持体に描き写しました。そのため鉛筆デッサンには、鋭い物で削った時にできたとみられる引っ掻いたような跡が残っています。4年後、クレーはこれらの《室内透視図》を手直しして《もう一つの幽霊部屋》と《背の高いドアのある幽霊部屋》と改題しました。このタイトルによって、2次元の人間の姿は異世界からの幽霊になったのです。
今日の名画を紹介するにあたりご協力いただいたベルンのパウル・クレー・センターでは、3月12日まで「パウル・クレーとシュルレアリストたち」展が開催されています。パウル・クレーとパリのシュルレアリズムの芸術家の、1920年代から1930年代にかけての人間関係を、初めて包括的に探索した展覧会です。展覧会には、マックス・エルンスト、ジョアン・ミロ、ジャン・アルプ、アルベルト・ジャコメッティ、アンドレ・マッソン、サルバドール・ダリといったシュルレアリストの作品がたくさん集合しています。ベルンに行って、見てみたいものです<3
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