これは、12世紀のイランで作られたライオンの形をした香炉です。中で香をたくと、ライオンの体中に開けられた小さな穴から香り高い煙が出る仕掛けになっています。
この香炉は、11世紀から12世紀にかけて現在のイランを支配していたイスラムのセルジューク朝のもの(アミール・サイフ・アル=ドゥンヤ・ワル=ディン・ムハマド・アル=マワルディ)です。セルジューク朝は多くの優れた芸術家を輩出しましたが、特にこのブロンズ像のような金属細工に秀でていました。その芸術様式は、当時既に衰退していた王朝が滅亡した後まで長く受け継がれていきました。
ライオンの胴体に刻まれたアラビア文字には、制作した職人の名前を始めとした多くの情報が描述されています。セルジューク朝が信教としていたイスラム教では、人間と動物を芸術で表現することは禁じられていましたが、他の多くのイスラムの伝統と同じく、これは宗教的な事柄のみに適用されるものでした。世俗的な用途であれば、このブロンズ作品のような動物の像は、自由に宮殿を飾ることができました。
この香炉はかなり大きいもので、おそらく平均的な犬ぐらいの大きさがあります。個性豊かではあるものの、どう猛な動物には見えません。親しみが湧くような風貌ですが、頭から煙を出す姿はそうでもないかもしれません。このライオンの香炉は、メトロポリタン美術館のイスラム美術展示室にある多くの作品の中でも傑出した作品です。元々の置き場所だったイランの宮殿でも、きっと注目の的だったに違いありません。
- Alexandra Kiely
P.S. このライオンは、人なつこい子犬のようですね。絵画の中の可愛い犬たちはこちら。