一昨日はルネサンス期ヴェネツィア派の肖像画を紹介しましたが、今日は北に向かいます!アムステルダム国立美術館では、ルネサンス期の肖像画100点を集めた展覧会『Remember Me 肖像画の数々:デューラーからソフォニスバまで』を来年1月16日まで開催中。今日は同館の協力で、出品作品の中からベルリン国立美術館絵画館所蔵のペトルス・クリストゥスの肖像画を紹介します。驚くべきことに、とってもモダンな女性です。
この無名の女性の優雅な肖像画は、フランドル絵画の傑作。1470年頃にフランスと北欧の低地帯諸国(ネーデルランド)で流行したブルゴーニュ式のドレスをまとった若い女性。深いVネックの青いドレスから黒の胸衣がのぞいています。同時代のフランドルの年代記編者ジャック・デュ・クラークによると、深い襟ぐりと、円錐形の頂部を断ち切ったような形の人目を引く頭飾りは、1467年にお披露目された新しいファッションの特徴です。
フランドルとイタリアでは、理想とする美の身体表現が異なります。深い襟ぐりのVネックと高さのある頭飾りを特徴とする北欧の表現は、南欧と比べるとかなり縦に引き伸ばされたシルエットをしています。また、極めて写実的な描写もフランドルの画家の特徴。この絵の若い女性が着るドレスを縁取っている白い毛皮も、精細に描き込まれているがゆえに、イタチの一種の毛皮だということがわかります。透き通るような薄手のネッカチーフと胸元を覆うベールを胸衣に留めている小さな金色のピンも、細部まで正確に描かれています。一方で、女性の顔の特徴は様式化されています。しわを取り除き、ミステリアスな美をたたえた顔は磁器のようです。肉体的な完璧さと近寄りがたさの組合せは、宮廷詩人が賛美した謎めいた女性を強く想起させます。
その様式に魅せられたイタリアの画家と美術愛好家は、古くから北欧絵画を収集していました。フィレンツェの統治者ロレンツォ・デ・メディチの1492年版財産目録には、ペトルス・クリストゥス作の「フランスの女性の頭部を描いた油彩画」という記述があります。これこそ、クリストゥスの女性肖像画で唯一現存する本作のことだと言いたいところ。この肖像の女性は、レオナルド・ダ・ヴィンチの最初期の肖像画のモデル、ジネーヴラ・デ・ベンチに非常によく似ています。彼女ならメディチ家のコレクションにアクセスすることもできたでしょう。2人の女性は口元や目線、超然とした表情が共通していますが、クリストゥスの肖像画がフィレンツェで制作された証拠はありません。理想化された女性の描写で知られるクリストゥスが、時代から消えつつあった特徴を備えた肖像画を創作した可能性もあります。
P.S『Remember Me』展から魅力的な肖像画をいくつかご紹介します。こちらをご覧ください。お見逃しなく!