私見ですが、これは西洋絵画史上で最も美しい女性の肖像画の一つだと思います。1世紀を超える長きにわたって、その作者が研究者の間で議論の的となった本作は、エル・グレコの作品だと考えられてきましたが、近年の調査と詳細な分析によって、その出自が明らかになりました。調査の結果、この有名な16世紀の肖像画は、スペインの優れた画家アロンソ・サンチェス・コエロに帰属するとされたのです。
この作品は、エル・グレコの没年を記念して2014年にプラド美術館に貸し出された際に、包括的な技術検査が行われました(訳注:2014年はエル・グレコ没後400年の年)。研究者たちが行ったのは、X線検査、赤外線反射法、顕微鏡による分析など幅広い科学的手法を用いた、絵具層の詳細な調査。この結果は、2018年にグラスゴー大学とベルン応用科学大学で実施された追加分析によって裏付けられました。調査の結果、この絵で使われている材料と技法は16世紀スペインの慣習に沿ったものでしたが、特に下地と下書きの技法は、エル・グレコの作品に見られものとは大きく異なることが判明したのです。
サンチェス・コエロはフェリペ2世の治世下の宮廷で活躍した肖像画家で、当時高く評価されていました。今回の帰属の再定義は、誤った判断のせいでエル・グレコの影に埋もれていた彼の国際的評価を回復させました。女性の服装や宝飾品などの様式的要素と、当時の肖像画のモデルの社会的地位に関する更なる研究は、『毛皮をまとった貴婦人』が、公式あるいは非公式の肖像画に対するサンチェス・コエロの技量によって、親密さと美しさを兼ね備えた作品に仕上がったとする結論を支持する結果になりました。
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